巫女と王子と精霊の本
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「昔、私は誰かと……」
誰かとよく話していた。
あの声だけが私の友達、家族のような存在だった。
『…まだ思い出せないのか?』
「え……?」
不意にあの声とこの人の声が重なる。
「もう一人の私……まさか、あなただったの?」
『…思い出したのか?』
「うん、今までどうして忘れてたんだろう…」
何度も言葉を交わしたのに…
あなたも私の世界の一部だったのに…
『境界を越えた時の障害だろうな』
まさか、あなたがあの声の主だったなんて…
「あなたは一体誰?どうして私の中に?」
『わからないのか、俺の存在理由が』
存在理由………?
『俺が黒の結末を綴り、お前が白の結末を綴る理由。お前が世界を愛し、俺が世界を憎む理由を…』
「それって、どういう……」
『知れ、真実を。そしてお前の想いがいかに無意味なモノかを…』
そんな、私は誰かを想うことが無意味だとは思わない。
たとえ叶わなくても、夢や幻想だったとしても、無意味な想いなんてない。
人は想い、傷ついて強くなれる。
人は想いが届いて他人に優しくなれる。
「無意味なモノなんてなにもないよ」
『お前はまだ知らないだけだ。そして刻印がお前を殺す』
殺す、そう言いながら何故そんなに悲しそうな声を出すんだろう。
もっと非情だったのならあなたを本当に敵だと思えたのに…