巫女と王子と精霊の本
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ギオウ国、王の間。
「お久しぶりです、国王」
エルシスはギオウ国の王であるシキ・ギオウに頭を下げる。
「おお、エルシス王子に巫女か。久しいな」
国王は優しい笑みを浮かべる。
「ええ、本当に。国王もお元気そうで良かった。来てそうそう申し訳ないのですが、今日はお話しがあり、参りました」
エルシスの一言に緊張が走る。
ギオウ国はどんな決断をするのか…
私達と同じ、戦いの道か。
はたまた、運命に身を任せるのか……
「申してみよ」
シキ国王は静かに瞳を閉じた。
「はい…。実は……」
エルシスはこれから魔王と戦い、自らの未来を勝ち取る道を選んだことを伝える。国王が何を思っているのかはわからない。ただ静に瞳を閉じるだけだ。
「カイン国はマニル国、そして竜の一族と共に魔王を討ちます。ギオウ国にも、共にきてもらいたい」
「……それが、お前の選んだ道か。たとえ、死が待っていようと、その道を貫くか?」
死が待っているとしても……
その答えは決まってる。
私達は………
「俺達は……」
そう、答えは1つ。
「俺達は死なない。生きる為に戦うんだ」
そう、生きる為に……
私達の未来を勝ち取るために…
『そうだ、我もこやつらに感化された』
けたたましい咆哮があたりに響く。
「何事か!!」
「りゅ、竜だぁぁあ!!」
兵士達が騒ぐなか国王は静かに窓を開ける。
「…これは……竜か」
落ち着きながら国王は竜を見上げた。
「巫女、竜はなんと?」
「国王様、手を」
伸ばした私の手に、国王は迷うことなく手をのせた。
『人の王か、これはまた強き意志を感じる…』
「彼は竜王です。心のなかで思えば、国王様の言葉ま伝わります」
「…思う……」
―こうか?
『あぁ、聞こえておるぞ』
―ほう、面白い力だ。
『人の王よ、我も迷っておった。だか、こやつらに教えられた。ただ待つだけでは、未來は手に入らぬのだと』
―…待つだけでは…か…
そうだな、確かに待つだけではいけないのだろう。だが、我は恐れておる。年をとったのと同時に、王としての勇敢さ、導く力も失ってしまったらしい…
『長く生きれば、それだけ純真である事を恐れる。それは性だ』
―あぁ、ただ…
それは王としては欠点になる。
純真さは、民を導く道標となる。
澄んだ瞳は、広い視野をもつのだ。
『なれど、決断せねばならぬ。お前は、王なのだからな』
―あぁ、ただ我は違う決断をしよう。
違う…決断……?
私が首を傾げると、国王は優しい笑みを私に向けた。
「巫女よ、どうか息子を導いてくれ」
「!!」
そこで初めて国王の決意に気付く。
まさか、国王様………
「セキ、来なさい」
「はい?」
間抜けな返事をするセキに国王様はため息をつく。
「エルシス王子のようにお前もしっかりしていればな。不安もないのだが…」
「は?何、親父」
「おい、親父は止めろと言っただろう。全く、誰に似たのか…」
国王様はまたため息をつく。
「セキ、お前は今日この時をもって王となれ。ギオウ国の王にな」
「……正気?俺、散々王座に興味ないって言ったよね?縛られるの嫌だから」
「…お前が、巫女を拐うという汚職を引き受けたのは、なんの為だ?」
「……それは……」
「たとえ、王座に興味はなくても、国を思っての事だろう。誇り高きギオウ国の汚職を、お前は迷い無く引き受けた」
「…まぁ、あんたが必死に守ろうとした国だからな…」
セキは困ったように笑う。
いつもの作り笑いは無かった。