巫女と王子と精霊の本
「鈴奈ー!」
遠くから誰かが呼ぶ声がする。
誰…………?
声が聞こえる…………
『またか…。いつも俺の邪魔をする…』
不意に気配が消え、代わりに見知った姿が茂みから現れた。
「鈴奈!!」
「…ぁ…エルシス?」
声が思いの外出なかった。
いつもなら安心するはずなのに、今はただ怖かった。
永遠の愛なんて……
エルシスが幸せになればそれで…
―ズキンッ
「うっ…ぁ…」
胸を押さえる。
痛い……悲しい……
「お、おい!!しっかりしろ!」
エルシスが駆け寄って私を抱き締める。
私はどうして……
こんな悲しい選択しか残されていないんだろう。
あなた以外、私はいらないのに…
「敵襲!!王子、お戻りください!!」
「敵襲だと!?」
敵襲………?
城に近づいたから?
心は落ち着かないまま、立ち上がる。
「行こう、エルシス」
エルシスの手を振り払い立ち上がる。
まだ体はだるい。
それでも歩きだした。
「鈴奈、無理をするな!」
「…無理なんてしてない。ほら、皆を守らなきゃ、エルシス」
エルシスに笑いかける。