巫女と王子と精霊の本
「久しいな、鈴奈」
「!!!」
「!!!」
聞き覚えのある声にエルシスとほぼ同時に振り向いた。
「たどり着くのが遅いのでな、迎えに来た」
私と瓜二つな彼は、残酷な笑みを浮かべたまま私を見つめる。
「…私は、あなたと一緒にはいかない」
「いいのか?また孤独になるだけだぞ」
「……孤独……」
そう、私はまた孤独になる。
あの世界に帰り、また誰かの帰りを一人で待ち続けるんだ。
「鈴奈と…瓜二つ?おい!お前は何者だ?」
エルシスは、私を隠すように背に庇う。
「…鈴奈から聞いていないのか?」
「鈴奈?お前何か知ってるのか?」
そうか、エルシスは知らないんだ。
あの時は私しかいなかったから…
「この人は……」
何て説明すればいいの?
私自身、まだはっきりと状況を理解してない。
もう一人の私、本来なら別れるはずの無かった私の半身。
「鈴奈の半身だ。そしてこの世界では黒の結末を綴る者と呼ばれている」
「魔王側の人間か…」
エルシスは静かに剣先を目の前の男に向けた。
「魔王などどうでもいいのだ。俺が興味あるのは……」
そう言って私の半身は私を見る。
「……鈴奈に何の用だ」
もう一人の私の視線を遮るように私を背に庇う。
「所詮、その場かぎりの愛情しか注げない。そのくせ求め、お前の想いだけを押し付ける。それがどれほど苦しいことか、お前にはわからない」
……この人……
私のことを言ってる……?
「何の…ことだ……?」
怪訝そうな顔をするエルシスにもう一人の私は鼻で笑う。