巫女と王子と精霊の本
「俺と出会った事で、少しずつ負の感情もとり戻しはじめてはいるがな」
「鈴奈…お前は一体なんなんだ…?」
鈴奈は精霊の使いじゃないのか?
鈴奈のいた世界とは一体……
「鈴奈はこの世界を憎んでいる」
「そんなわけないだろ。鈴奈は守りたいと言った。あの言葉に嘘偽りなど無かった!!」
それは真実だ。
あの瞳は真っ直ぐに俺に誓ってくれた。
共に守ると………
「その時は真実だったのだろうな」
男は鈴奈の頬を撫でた。
「!!」
その行為に怒りが込み上げる。
「鈴奈に触るな!!」
「…今は、どうなのだろうな?この世界を救う事に本当に心から賛成しているのか……」
俺の声かけを無視し、男は話続ける。
「お前も気づいているだろう、鈴奈はお前を愛している。だが、この世界を救えば鈴奈の役目は終わり、元の世界に帰らなければならない」
鈴奈も、俺と同じように想っているのではないかとは感じていた。
でも、例えそうだとしても……
「鈴奈はそれだけで世界を見捨てたりはしない!たとえ俺と同じように、想ってくれてたとしてもな」
鈴奈はそれでも救うと言ったはずだ。
「…それはお前の押し付けだろ。そうやっておまえ達が鈴奈を追い詰めた。鈴奈は人間だ、何を犠牲にしたとしても手にいれたいものもあるかもしれない」
「俺が……鈴奈に想いを押し付けてたっていうのか…?」
でも、そうかもしれない。
鈴奈は時折苦しそうな、辛そうな顔をしながら巫女として振る舞っていた。
俺が巫女なんて、役割を与えたから…なのか…?
「鈴奈は返してもらう。もう充分分かったはずだからな。希望などないと。この世界も、元いた世界も孤独である事には変わらない、お前を裏切らないのは俺だけだ…」
この男は……まさか……
鈴奈の事を……?
「 さぁ、行こう…。もうお前を一人にしない」
鈴奈を横抱きにし、俺に背を向ける。
「やめろ!!鈴奈を連れていくな!!」
泣きたくはないのに、涙が出る。
悔しかった。
己の剣で何でも守れる、そう思っていた。なのに今、こんなに俺は無力だ。
懇願することしか出来ない。
みっともなくてもいい、ただ鈴奈だけはっ…
「鈴奈ぁぁっ!!」
―グワンッ
そんな懇願すら虚しく、鈴奈は男と一緒に歪んだ空間の向こうへと消えてしまった。