巫女と王子と精霊の本
「…鈴奈を奪われた……」
驚くほど消え入りそうな声になってしまった。
「…なっ…嘘…だろ……。なぁ!!」
セキは俺の肩を掴んだまま叫ぶ。
無言で首を横に振った。
その、瞬間―…
―ドガッ!!
「ぐっ!!」
―ザシュッ
セキに殴られ体が地面に転がる。
そのまま起き上がれず、セキを見上げる。
「いつまで寝てるつもり?」
冷たい瞳で見下ろすセキ。
…こいつを怒らせたのは俺か……
「俺は…本当にあいつを取り返していいのかわからない…」
俺はあいつを苦しめてきたんじゃないか?
「…俺は、あいつを苦しめる。あいつを想えばおもうほど、あいつを……苦しめるんだよ……」
あいつを……守りたいと思ってた。
なのに……
俺は…迷った。
そして恐れた。傷つける対象が魔王でもなく、黒の結末を綴る者でもなく、俺だったことに…
「今さら、迷ってるじゃねぇよ…」
―ザシュッ!
セキは剣をぬき、俺の顔ぎりぎりの地面に突き刺した。