巫女と王子と精霊の本
白と黒の私
――――――――――――――――
――――――――――――
――――――――
これは、遠い日の記憶ー…
「ねぇ、鈴君」
誰もいないはずの家で、幼い私は誰かに話しかける。
『なんだ?また寂しくなったのか』
そう、鈴君は私の中にいる友達。
私の、『鈴奈』の名前からとって鈴君と呼んでた。
「うん。だって、あるさてぃあは本当にはないんだよね。おかあさんが言ってた」
本の中だけの空想の世界。
私はいつか、このアルサティアにすら行けると思ってた。
でも………これは物語でしかないんだと知った。
『そうだな。本当には存在しない』
「どうして……私はあるさてぃあに行けないの?」
『物語は物語でしかないからだ』
私は……またひとりぼっちになった。
この本が、大好き。
私に心と夢と居場所をくれたから。
でも………
この本は私から夢と居場所を奪った。
私は………また一人……
「嫌い……」
ただ誰かが傍にいてくれればそれでよかった。
誰かに必要とされ、求められたかった。
一人ぼっちになるのは嫌。
また誰かの帰りを待たなきゃいけないの?
また私を苦しめるの?
「こんな本……いらない!」
―バンッ!!
本を投げ捨てる。
「う…うわぁぁぁんっ!!」
目を両手で覆い泣いた。
視界に広がる闇が、私の存在ごとのみ込んでくれればいいのに…
そうしたら、こんなに苦しむことなんて無かったのかもしれない。