巫女と王子と精霊の本
『それは…難しいであろうな。人間が他世界の境界を何度も越えることがあれば、肉体がもたない』
―肉体が……。
今のは、平気なのか?
『あれは、境界を越えた内には入らん。世界の境界はもっと手強いぞ』
世界の境界……
そんな境界を越えて、鈴奈は平気だったのか…?
そういえば、鈴奈とそっくりのあいつが変な事を言っていた。
…あいつは、もうひとりの鈴奈だと。
この世界に来たときに"別れた"と…
なら、二つに別れたのは境界を越えた代償なのか?
『人の子の王子、エルシス。考えていても答えは出ぬだろうよ』
何かを見透かしてなのか、それとも何の理由もないのか、考え込む俺に竜は声をかけてくる。
―すまない、今は先に進まないといけなかったのにな…
『お前が望む通りにすればいい』
ー俺の……望む通り………
俺はあいつが好きだ。
ずっとそばにいて、守ってやりたい。
鈴奈がいた世界が、あいつに優しくない世界だと言うなら、こっちの世界で俺が孤独など感じさせないほどに愛してやる。
「…傍にいたい……」
思わず言葉にすると、何故か迷いが晴れた。
―ありがとう、竜王。迷いが晴れた。
『そうか、なら行くぞ。我等の未来を切り開く為に』
その言葉に強く頷き、歩き出したのだった。