巫女と王子と精霊の本
「鈴奈?どうしました?何故…泣いて…」
私にもわからない。
最近、私は何故か泣いてばかりな気がする。
どうしてなんだろう……
どうしてこんなにも悲しいんだろう…
「おそらく、この男性は魔王です。私が見た魔王と同じ姿をしています」
「これが……魔王……?」
絵画に描かれた青年を見つめる。
悲しげに少女を見つめる青年は悲しげな瞳をしていて、魔王などという恐ろしい存在には見えなかった。
でも、どうして私がここに描かれてるんだろう?
私はこの世界の人間ではないのに…
それとも私にそっくりな誰かなのかな?
「それはお前だ、鈴奈」
「っ!?」
突然聞こえた声に振り返ると、そこには…
「鈴君……」
私と瓜二つな男性がいた。
そう、もう一人の私……
「……鈴君…か。お前が俺をそう呼ぶということは、思い出したのか」
私は頷く。
鈴君は何故か優しく笑みを浮かべる。
そう、この人は許してはいけない。
大切な人をたくさん傷つけられた。
でも……私の為に……………
残酷なこの人を、私は嫌いになんてなれなかった。
「鈴奈、この人は……?」
ラミュルナ王女が怯えたように私にしがみつく。
なんて説明したらいいのかな……
でも、どう言っても、鈴君の考えは理解してもらえない。
歪んで…しまってるから……
「ラミュルナ王女は、私の後ろにいて」
ラミュルナ王女を背に隠し、鈴君と向き合う。
「鈴君、もうやめよう。こんな悲しいこと…」
「…お前が望んだ。強く、そして深く。まだ思い出せていないのか?」
違う、違うよ………
私は、きっと幼かった。
誰かを憎むことでしか、あの苦しみから目を背けることはできなかった。
「ごめんね、鈴君…。私のせいだね…」
どうして、ずっと忘れてしまってたんだろう。
今度は私がこの人を孤独にしてしまったんだ……
「俺は…お前だ。それなのに何故、わからない!!お前のいう大切なものができたせいか?くだらない!!どうせ簡単に裏切るのだからな!!」
全てを憎む心。
私のものだった心………
「……ならば、お前の大切なものとやらを壊し、消し去ってやろう。お前が、もう二度とつまらぬ夢を抱かないようにな」
―ブワァァァッ!!
黒い風が吹き荒れ、立っているのもやっとになる。
「っうぅ…も、もう立っていられません!!」
「ラミュルナ王女!!」
どうしよう、せめてラミュルナ王女でも逃がすことができたら……
「…まずはその女か」
鈴君はラミュルナ王女を冷たい瞳で見つめる。
でも、なにかがおかしい。
そこにいるのは私と瓜二つの鈴君のはずだった。
なのに………
「鈴…君……?」
そこにいたのは、漆黒の髪に紅の瞳をもつ青年、あの絵画の青年だった。