巫女と王子と精霊の本
「ハァッ!!」
―ガキンッ!ガキンッ!
「エクレーネさん!!」
―お願い!!エルシスを守って!!
―ピキィンッ!
私の想いに応えて、エクレーネさんが水の結界をはる。
「怪我はないな?」
「エルシスこそ!」
私達は互いに前を見据えたまま尋ねる。
信じてる、だから互いをみなくても安心感があった。
「こざかしい、水の精霊か…」
「友達なの、きっと鈴君も仲良くなれるよ!」
「まだそんなことを……」
鈴君は怪訝そうに私を見る。
「何故だ、お前は俺と同じだろう?」
「そうだね、私達は似てた」
でも、今は違う。
確かにこの世界の一員になれないことは辛い。
みんなが羨ましい…そう思ってた。
きっと憎んだこともあったかもしれない。
「それでも……。私がこの世界を憎んだのはこの世界を、この世界を生きる人達が大好きだったからだと思う。だから…妬んだ」
羨ましかった。
私には絶対手に入らないものだから…
「鈴奈……」
エルシスは悲しげに私を見つめる。
そんなエルシスに私は笑みを返す。
「本当は寂しい、本当は…ずっとエルシスの傍にいたい…」
―ズキンッ!!
また刻印が私の体を蝕む。
でも、今は隠さず伝えなきゃ。そうしなきゃ、鈴君に私の想いは伝わらない。
「…っ…はぁっ…」
「鈴奈!」
傾く体をエルシスが抱き止める。
あったかい……私はいつもこの腕に守られてたんだ。
「こんなに痛いのに、こんなに苦しいのにっ……私はこの痛みすらも愛しいんだよ…」
わかるかな?
こんなにも私は満たされてて、傍にいれない寂しさなんて忘れてしまうくらいに……
「……俺も……。お前がいなくなったら…生きていけない…。お前は、それくらい俺にとってっ……」
―ポタッ
温かい雫が私の頬を濡らす。
これは……エルシスの涙……?
顔を上げると、エルシスは泣いていた。
その悲痛な顔に、私まで悲しくなる。
「…俺は…お前と一緒に生きたい……」
「…っ……」
たまらず涙が溢れる。
たとえ一緒にいられないとしても、想うのは自由だよね?
きっと、私はこの人以外を愛することはもう一生ないのだと思う。
「好きだ、鈴奈…」
「…っ…私も………好き…」
伝えられただけで、こんなに幸せなんだよ?憎しみなんてとうに消えてた。
「私に、誰かを好きなる気持ちをくれてありがとう…。私は、エルシスがいたから、憎しみに囚われずにすんだんだよ…」
私はエルシスに支えられながら鈴君を見据える。
「あなたも同じ」
「俺はっ…お前とは違う!!もう…お前は何も憎んでないんだろう!?」
今にも泣き出しそうな、悲痛な声が胸を締め付ける。
「鈴君……」
「俺はっ……いや、お前のせいなのか…。お前のせいで鈴奈は……」
鈴君はエルシスを睨み付ける。
憎しみに囚われたこの人を、悲しく思う。
私のせいでもあるんだ。
この人を、なおさら闇に引きずりこんでしまった。