巫女と王子と精霊の本
「鈴君、鈴君はこの世界を憎んでた」
「そうだ、今もな!!魔王を殺せと、全ての憎しみをこの身に受けるたび、憎しみが底を知らずにあふれでる!!」
憎しみ、それは愛してたからこそ生まれたのではないだろうか?
信じてたから、裏切られた悲しみから生まれるのではないの?
「本当は……愛されたかった…」
私は、愛されたかった。だからこそ手に入らないこの世界が嫌いになったこともあった。
「な…んだと……?」
「でも、どんなに願っても手に入らないから…嫌いになるしかなかった…」
そうやって憎むたび、その時だけは悲しみから解放された。
「そんなもの望んでいない!ただ、このくだらない世界が消えてしまえばいいと…」
「なら、世界を壊した先にあなたは何を求めてるの…?」
「…壊した先……?」
「ひたすら憎んだ世界が消えて、あなたはその後どうするの?」
ただ、無感情なまま世界を壊したのなら、世界が消えたしても、なにも思わないだろう。
でも……憎んでた。
憎しみは愛情の裏返し。
「人も、精霊も、動物も、自然も…。全てを失って、残るのは無だよ。また、一人ぼっちになる。今度は憎む相手もいない…」
「何が…言いたい……?」
鈴君はもう気づいてるんじゃないかな?
この世界を壊したら、きっと辛いのは……
「鈴君自身が悲しむ。きっと後悔する…」
「…そんな…こと…は……」
否定しながらも、鈴君は上の空だった。
葛藤してるのかもしれない。
「鈴君、もうあなたを一人にしたくない。私は、一番あなたと近くて、痛いくらいその孤独を知ってる。一緒に生きるの、このアルサティアで」
もう一度手を差し出す。
鈴君は迷うように私に手を伸ばす。
「俺は……許してもいいのか…?」
まるで自分に問いかけるように私に問う。
本来であれば別々の人であった私達。
でも、一つだった。
だから、もう一人の私として出来ること。
最後に、もう一人の私、魔王である私に……
「うん、もう許してあげよう。私自身が、幸せになる為に…」
「俺…自身が…幸せになる為に…」
噛み締めるように頷く鈴君に笑顔を向ける。
もう、憎まないで。
幸せになってほしい。
私みたいに、誰かを愛する気持ちを知ってほしい。
互いの手が触れ合う瞬間―……
『駄目だよー、そんな事したら物語が変わっちゃうじゃないか!』
何処からともなく聞き覚えのある声が聞こえた。
周りを見渡すと、私達の目の前には…
「…フェル……?」
そう、私をこの世界に招いた本の精霊フェルがいた。