巫女と王子と精霊の本
―バサッ
その時、私の手から、本が落ちた。
パラパラとページがめくれ、淡い光を放っている。
「……本が………」
拾ってページを確認すると、物語が新に綴られている。
―魔王は心を取り戻し、アルサティアで生きていく道を選びました。
しかし、魔王の中で渦巻く膨大な魔力は暴走し、世界を飲のみ込み、全てを滅ぼしてしまったのでした。
「これ…は………」
これは、未来が変わってる。
鈴君の力が世界を滅ぼしてしまうなんて…
でも、鈴君は心を取り戻せた。
だから……
「未来は…変えられる…」
「鈴奈…?」
エルシスは私を心配そうに見つめる。
この、優しい人を…
私の大好きな人を…守るんだ。
「まだ、希望はある」
この手に、この本があるかぎり。
「アルサティアを守りたい!!誰もが幸せになれる、自分の力で未来を切り開くことができる自由な世界にしたい!!」
―パァァァッ!!
本が眩い光を放ち、輝く。
温かい光と、物凄い風が吹き荒れる。
「鈴奈!?これは!!?」
「エルシス、まだ私たちには希望がある!」
だってほら……
私達の望む未来への道を示してくれる。
《白の結末》
強大な魔王の力になすすべがなかった王子でしたが、そこへ泉の精霊があらわれ、王子と契りを交わします。
泉の精霊は、水の力を王子へと与え、共に戦い、魔王に勝つことができました。
「泉の精霊……エクレーネさん!!」
―エクレーネさん!!
力を貸してください!!
『鈴奈、わらわに出来る事なら、わらわは共に戦おう』
―ありがとうございます…
実は、エルシスと契約してほしいんです
『王子とか…?』
―はい。
二人の契りで、エルシスに水の力を与えて下さい。
『だが、契約は等価交換。王子は何をわらわに払う?』
精霊との契約は等価交換。
それは精霊の世界では絶対的な決まり事なのかもしれない。
でも、それは信頼の証。
「エルシス、エクレーネさんと契りを交わして!」
「あの精霊とか!?いきなり、どうしろと?」
「エクレーネさんと契りを交わせば、鈴君に対抗できる!信じて、エルシス!」
私の言葉に、エルシスは笑う。
「俺はお前を信じてる。どうすればいい?」
『あとはわらわがやろう…』
―エクレーネさん!?
―パァァァアッ!!
急に胸元が光を放つ。
「お、おい!鈴奈!?」
エルシスが私に手を伸ばす。
おかしい、自分の体なのに指一本も動かせない。
「久しいのう、人間の王子よ」
「鈴奈……じゃないな、誰だ?」
エルシスは私を怪訝そうに見つめる
え、私が勝手に話してる!!
エクレーネさん!?
「くくっ、大丈夫だ。実際に会えればこのような手間もないのだがな、お前の体を依り代として契りを交わそう」
「ということは、泉の精霊エクレーネか」
「契りを交わそうとはいったが、わらわはただでは契らん」
「…なっ……」
冷酷に睨むエクレーネさんをエルシスは困惑したように私を見つめる。
…頑張って…。
きっとエルシスなら大丈夫。
何を等価交換すべきなのかを…
「互いに利益があるとわかれば契約成立だ」
「鈴奈も、何かを等価交換したのか?」
エルシスは何故か心配そうに尋ねる。
「あぁ、鈴奈も等価交換をして契りを交わした。それも、何ものにも代えられないものを…」
それは……あの時の…
互いに助け合うということ。
でも、私ばっかり助けてもらってる。
ちゃんと約束が成り立ってるのか心配になるけど、私はずっと守っていきたい。
互いが苦しんで捧げるものじゃなくて、互いに望むものを…代価とする。
出来ない約束じゃなくて、叶えられる約束を…