巫女と王子と精霊の本
「…俺は…命とか、そんな大層なものは差し出せない。俺には、まだこの手でやらなければならないことがあるからな」
自分の手を見つめながら、噛み締めるように言うエルシスに胸が苦しくなる。
私がいくら弱くてもいいといっても、この人は背負うものが多すぎる。
だからこそ私が、この人の重荷を少しでも背負いたい…
「…なら、力と引き換えに何を差し出す?」
エクレーネさんの言葉にエルシスは真っ直ぐと私の目を見つめた。
「…俺は、簡単に終わることのない約束をしよう。この命が消えるまで、お前の心を、体を守る友になりたい。どのような困難からもこの手で守りきると誓おう」
………エルシス……
やっぱり、エルシスはすごい。
正しい答えを導けるんだから……
「…くくっ…。まさか、お前と同じ答えを導くとはなぁ、鈴奈」
ふふっ、そうですね。
でも、信じてましたから!
「なんだ、何かおかしなことを言ったか?」
笑っている私達をエルシスは怪訝そうな顔をする。
「あぁ、合格だ。わらわを守ってくれ、エルシスよ」
そう言ってエクレーネさんはエルシスに顔を近づける。
「な、なんだ!?」
顔を赤くしながらエルシスは後ずさった。
エ、エクレーネさん!?
一体何を!!?
「契りだ、約定を結ぶ」
「っ…!!?」
そしてエクレーネさんはエルシスに口付ける。
わ、私がエルシスと……!?
キスしてっ!?
「…っふ…成立だな」
エクレーネさんが唇を離すと、心無しか顔が赤いエルシスがわざとらしく咳払いをする。
「…ゲホッ…ん。これでいいのか?」
『あぁ、わらわの声が聞こえてるであろう?』
あ……体が動く!!
でも…私にもエクレーネさんの声が聞こえる。
どういう事…?
『鈴奈、わらわは主を気に入っておる。契約はお前たち二人と交わしたままとした』
「そんな事が出来るんだ……」
―私もエクレーネさんと一緒にいれて嬉しいです。
どうか、力を貸して下さい!
「…では、さっそくだが力を貸してくれ」
エルシスが剣を構えると、水気が剣に集まっていく。