巫女と王子と精霊の本
「………鈴…君……?」
「もし……俺が…。今考えている事で迷ってるなら…。
そんな迷い……は…捨てろ……」
「!!」
鈴君………
まさか、わかってるのかもしれない。
なにより、鈴君自身の事だから……
「俺は……望んでやるんだ。今度は、誰の指図でもなく…自分の意志だ…」
「!!」
今まで、全てに絶望していたこの人が、今はこんなに意志の強い瞳をする。
だったら、私がすべき事は………
「……エルシス…………」
私はエルシスに向き直り目をまっすぐに見つめる。
「…鈴奈……?」
エルシスは不安そうに私を見つめ返す。
「……お願い、みんなを守って。城の外の魔物を倒して!」
「…お前はどうするんだ?」
「…………………私はここに残るよ」
それは鈴君の決意を見てから心に決めていた。
鈴君を一人にはしない。
今度は私が傍にいてあげたいんだ。
たとえ、ここでエルシスと永遠にお別れになったとしても……
「……鈴奈……これで最後…なのか…?」
「……うん…っ…」
声が震える。
必死に涙を堪えて笑みを浮かべる。
「私、あなたと出会えて良かったっ…よ。本当に……」
この出会いに何度感謝したことか……
たとえフェルの悪行の手助けになってしまったとしても、今はこの世界に連れてきてくれたことを感謝している。
「……そう…か…っ…」
エルシスは泣きそうな顔で私の頬を撫でた。
「………エルシス……あなたはきっと強くて優しい王様になるよ。でも、弱さも忘れないで……」
「弱さ…もか?」
私は頷く。
強いだけじゃだめ、弱いだけじゃだめなんだ。
頬に触れるエルシスの手に自分の手を重ねる。
「私は…弱さを知ってるから、弱いものの想いを知ることが出来る。だからこそ本当の強さが生まれるんだと思う」
「…弱さも…強さか…。本当、お前には負ける」
エルシスは私の額に口づけた。
―ずっと傍にいたい。
この人を支えたい…………
でも、それは私の役目じゃないんだ。
ラミュルナ王女なら……きっと……
「鈴奈、俺は…お前を愛してる」
「…っ…ふっ…ぅっ…」
我慢してたのに、嗚咽が漏れる。
涙まで溢れてしまった。
この人の前では、強くいたかったのに………
エルシスは、私を弱くする。
「…どこにいたって、お前だけを愛してるっ…」
エルシスも泣いていた。それを見てまた涙が溢れる。
私だけ…なんて言わないでほしい。幸せになってほしい。
でも……………
そう思う一方で、私以外を愛さないでほしいとも思うんだ。
「…私は、あなたの幸せを誰よりも祈ってる……」
だから、私は愛してるだなんて言わない。
エルシスを私の想いで縛りつけたくはないから………
「さ、行って……エルシス!!」
愛してる、私も……ずっとあなただけを…
「…………っ!!また…な…」
エルシスは勢い良く背を向け、走り出す。
「……また……か…。また…ね、エルシスっ……」
またなんてきっとないから………
それでも信じたかった、そんな奇跡があるって…