巫女と王子と精霊の本
『誰の記憶にも残らずに、消えてしまうんた。それを君なら止められる』
「…私…なら……」
ただ同じ毎日を繰り返し生きていた日々が、180度変わる気がした。
『お願い…鈴奈』
「…私、この本が消えるなんて嫌。この本は、私の大切な心の一部なの」
親が仕事で忙しい時、私は本が居場所だった。
この本が、心を温かく包んでくれた。
「忘れるなんて嫌。だから…結末を変えたい。フェル、私はどうしたらいい?」
生きていく中で、誰かの為に私に出来る事なんて数少ない。
だから……
今誰かが助けを求めてるなら、私は何かしたい。
『ありがとう鈴奈!!君は物語の世界に行って、物語を本来の姿に戻すんだ』
「私の知ってる物語の通りにすれば良いんだね」
私の言葉に、フェルは頷く。
『どうすれば良いかは、この本が教えてくれる。困ったら本に願えば次にすべき事を教えてくれるよ』
「本に聞くんだね」
『うん。物語を白い結末に出来れば、元の世界に帰れるから、頑張って』
私に…出来るかな…
なんだか不安になってくる。
『君の本への想いがあれば大丈夫。きっとその本が導いてくれるから』
「この本が…」
私は自分の手の中にある本を見つめる。
私の大好きな物語…
きっと元に戻してみせる。
『でも気をつけて、物語の結末を変えたやつが君に何かするかもしれない。だからくれぐれも気をつけて…』
「えっ……!?」
気をつけろってどういう事!?
―パアアアアアッ!!!!
本のページが勝手にパラパラと開き、光を放つ。
『頼んだよ、鈴奈。』
「頼んだって…きゃああああっ!!!」
体が物凄い勢いでどこかへと落ちていく。
『役者は揃った』
遠くで、フェルの笑う声が聞こえた気がした。
私はそこで気を失ってしまった。