巫女と王子と精霊の本
「そろそろ風が出てきた。帰るか」
「うん」
エルシスが少し前を歩く。
エルシスにばれないようにその背中を見つめる。
エルシス、私はきっとアルサティアを救いたいんしゃない。
エルシスを守りたいから…
だからエルシスの生きる場所を守りたいんだ。
皆の為に、そう言えない私は嫌な人間なのかな…
ただ一人の為に、なんて…
『何か悩んでおいでかな、お嬢さん』
「!!」
突然耳元で男の人の声が聞こえた。
辺りを見渡してみても人の気配はない。
気のせいかな…?
『いや、気のせいではないよ、お嬢さん』
「誰っ!!」
気のせいじゃない!!
バッと後ろを振り返り、周りを見渡す。
『私に姿はないよ。私は思念体だからね』
「思念体…?」
『想いの塊とでもいおうか…』
想いの塊………?
「おい、鈴奈!どうした?」
エルシスが私を心配して戻ってきた。