巫女と王子と精霊の本




「音羽さん…………」



そうだよね、そんな事、音羽さんが一番よくわかってるはずだよね…



《いいの、それに……私と世界が完全に繋がった。これでやっと………》




―パァァァァッ





光が瞬き、大樹からハミュルの花が咲き誇る。






《おかえりなさい…私の愛しい世界………》







その瞬間、先程の廃都市が美しい都市へと生まれ変わり、民たちが目を覚ますのが見えた。


すごい……
どんどん世界が彩りを取り戻していく……



《…良かっ…た……。これで…私…も………》

「音羽………さん……?」


音羽さんの声がか細くなっていく……



「音羽っ!!!」




すると、そこにハミュルが現れた。



「鈴奈、無事か!?急に消えたから心配したぞ!!」





エルシスが私に駆け寄ってくる。





「エルシス……音羽さんが………」

「俺も記憶を見た……。ハミュル……」




大樹に駆け寄るハミュルをエルシスは心配そうに見遣る。




「音羽!!」

《……ハ…ミュル………》



ハミュルは大樹に縋り付いた。



「どうしてっ…一人でっ…」


《だって……あなた…反対する…でしょ……?》


「あたりまえだ!!こんな事なら…私がっ……」




泣き崩れるハミュルの頬にに大樹のツルが優しく触れる。



《ハミュル…私は…あなたに…死んでほしくなかった…》


「それは、私も同じだよ…君が大切なんだ……」



別れが近づく二人に、胸が締め付けられる。



何も……できないの……?
私は、私には何もできないのかな……?



《愛してる……ハミュル……幸せ…に……》


「行かないで!!私には、音羽こそが世界なんだ!!君が消えたら…わたしの世界も消えてしまうんだよ……?」


音羽さんの声は完全に聞こえなくなってしまった。
音羽さんは世界と繋がり、世界の核として存在し続けるけど、ハミュルは……



「音羽っ……音羽っ……」



泣きながら愛した人の名前を呼ぶハミュルの姿に、私まで涙が出た。




< 85 / 300 >

この作品をシェア

pagetop