巫女と王子と精霊の本
「……駄目だよ………」
「鈴奈……」
エルシスは私を慰めるように抱き寄せた。
このまま二人が幸せになれないなんて、駄目だよっ……
『力を…貸してください…』
頭の中に声が響いた。
周りを見渡す見渡しても、何もいない。
『綴る力を、今…二人の幸せを願うあなたの想いを……』
「私にできることならなんでもする、だから……」
二人を幸せにして……
こんな終わり方、誰も望まないっ!
『これを……』
―パァァァァッ
目の前に本が現れる。
「なんだ!?」
エルシスは私を背にかばう。
「大丈夫、だと思う」
私はゆっくりと本に近づき、手に取る。
そのとたんに本はさらに光を放った。
『白の結末を綴る少女…どうか、彼女たちを救ってあげて…』
「お願い、音羽さんとハミュルに幸せな結末をっ!!」
―パァァァァッ!!!
光が瞬き、大樹の根本から音羽さんの体が出てくる。
「音羽!!!」
ハミュルは音羽さんの体を大樹から引き剥がし、抱きしめた。
「ハ…ミュル…。私…どうして……」
「良かった!!また、音羽に触れられたっ……」
ハミュルは泣きながら音羽さんの頬をなでる。
ークラっ
「っ!!」
「鈴奈!!」
ふらつく、私をエルシスが抱き留める。
「へへっ…良かった。二人が幸せなら…嬉しい」
「全く、自分の心配をしろ」
エルシスは呆れながらも愛しそうにわたしの頭をなでた。
「…鈴奈…さん」
音羽さんはハミュルの腕の中で私に語りかける。
「ありがとう…あなたのおかげで、彼と生きることができる…わ…」
幸せそうに笑う音羽さんに私は笑みを向けた。
「よかった、二人共幸せになってね!」
「鈴奈……君には感謝してもしたりないよ。あの時、私を見つけてくれてありがとう。おかげで私は、もう一人ではない。あの孤独な時間も…君に出会うためだったのかもしれない。ありがとう………」
ハミュルは音羽を愛しそうに見つめ、私に頭を下げた。
「鈴奈、私は完全にこの世界の境界を閉じます。おそらく、あなたの世界のハミュルの花もその存在を消すでしょう。あれは、私がハミュルの為に咲かせた花だから…」
「ははっ、君らしい。私は寂しがりや、らしいからね」
二人のやりとりに笑ってしまう。
そうか、あの花はハミュルが寂しくないようにと音羽さんが咲かせた花だったんだ…