-Lost Japan-失われし愛国
「失礼します。」


「どうぞ。」


扉に軽くノックをすれば木製だからか澄んだ音を響かせて、相手からの返答を確認すれば冷たいノブを握り締め、扉を開いた先には怒りに亀裂の入った女性の顔が視界に入る。


「静流さん、すみません。時間に少々遅れてしまいました。」


「う、先手を打たれたら怒り様がないわね。まあ、本題に直ぐに取り掛かるわよ?」


朱槻静流(あかつき・しずる)はレジスタンス本部の代理最高司令官の座に着く若き女性で、蓮哉達と四歳程度しか離れてはいないが、司令官としての指揮はレジスタンス内で一、二を争う程高く、技術は皆に評価されている。
正式な司令官は高嶺和久(たかみね・かずひさ)は迫害された人々を助けようとした際に負傷し、現在は特別治療室で療養中としていた。


「また上に行くって任務か?」

「平たく言えば、そういう事ね。私達とは別のレジスタンスから、対政府用核兵器の設計図が奪取されたらしいの。」


先程の表情から打って変わり、真剣な瞳に二人を映して片手を額に当てて、悩みの種が増えた様に静流は息を吐き出した。


「その設計図の奪還が任務って事ですか?情報が漏れたら、こちらが不利になりますから。」


「流石は蓮君。察しの通り、そういう事になるわね。今情報が知られたら、レジスタンス全体の存亡が危うくなる可能性があるの。」


静流は真剣な表情で現状を告げて、既に情報が知られているという可能性を考え、自らの顎に指先を当てて苦虫を潰した様に表情を歪めた。
静流の差し出した逃走して行ったルートを途中まで記した書類を受け取れば片手に拳を握り締めて、晃はやる気満々に口元に笑みを浮かべた。


「任せとけって、静流さん!俺と蓮のコンビネーションに勝るモンはねえさ。」


「そんなにハードル上げるなよ晃。では、失礼します。」

晃の過信し過ぎる言葉を冷静に返し、視線を静流に向けて一礼すれば蓮哉は背を向け、部屋を後にした。
< 11 / 90 >

この作品をシェア

pagetop