-Lost Japan-失われし愛国
「…蓮哉?」


「!あ、ああ。取り敢えず本部に連れて行こう。」


記憶の迷路に彷徨う蓮哉は晃の言葉で、一気に現実にと引き戻されて、一時的に呼び覚まされた欠けた記憶の一部が残した不思議な感覚に片手で自らの髪を掻き上げる。
蓮哉の言葉に、辺りに警戒心を向けていた晃の警戒心が一瞬の内に崩れて、勢い良く蓮哉に視線を向けた。


「な、何言ってんだよ!?見た感じからして、敵だろ。許されると思ってるのか?」


「責任は俺が取る。…それでも駄目なら、去るさ。」


普段の蓮哉ならば、安全は尊重するが、此所まで親身になるのは珍しい事で、それが今会ったばかりの人物に対してなら尚更驚きは増す。
蓮哉は少女を片手で支える様に背負い、片手に銃を構えて辺りに警戒を張り巡らしながら、足早に本部へと足を進めた。


「お、おい!っ…どうなっても知らねえからな!」


「サンキュー、相棒。」


「へっ、気にすんなよ。相棒。」


蓮哉の意を汲んだのか、それ以上は否定の言葉を紡ぐ事はなく、相棒の信用した人間を信用し、口元に弧を描き軽く相棒の肩を叩いた。


「…!先に行け蓮哉。多分この足音は監視官だ。今、その女を見付からせる訳には行かないからな。」


不意に晃の表情が険しくなり、研ぎ澄まされた聴覚が敵の音を察知し蓮哉に足音とは逆の方を指差して言葉を紡いだ。
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