-Lost Japan-失われし愛国
「…ぐ…っああ!」


次の言葉を紡ぐ前には二度目の銃声が静寂の世界に響き、悲痛の叫びが後を追う様に響く。
次に狙われた部位は右足と対になる左足。
両足に広がる痛みと道に染み渡る生暖かな赤ワインの様な血が死への恐怖に導き、死を予感した体は僅かに震え、止めどなく傷口から溢れ出す己の血に瞳は覇気を失った。


「……。」


蓮哉は止める事は出来なかった。


冷酷かも知れない。


最低な人間かも知れない。


確かに助ける事は容易に出来るだろう。
しかし、潜入している身でわざわざ見付かる可能性を増やすのは得策とは言い難い。
なら、何故少女を助けたのか、敵を本陣に招く一番危険な真似をしたのか。


何度自分に問い掛けても、答え等出る筈もない。


漂う火薬の臭いが鼻を突き上げ、無意識に蓮哉の構えた銃は建物の陰から監視官を狙った。


「人一人救えないで…、一つの国に牙を剥く事が出来るのか…?」


自らに問い掛けた言葉は次の瞬間に鳴り響いた銃声に小鳥の囀りの様に掻き消され、監視カメラのレンズだけが鮮明にその瞬間を一秒一秒を映していた。
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