-Lost Japan-失われし愛国
その日の夕暮れには有志を募り結成された人達による、大きなデモが決行された。
憲法の配布と同時に建設完了の発表があった日本政府の中枢にあたる「日本帝国官邸」に向けて、大きな旗を振る人もいればスピーカーで演説を始める人もいた。


「我々、日本国民は先日配布された憲法には素直に従う事は出来ない!政治の事は分かりはしないが、あまりに身勝手な行動ではないか!?」


「国民主義、万歳!国民主義、万歳!」


テレビの中継、レポーターや報道陣も政府の対応を待ちながら、演説を続ける人達をカメラに収めていた。


「予想通りの混乱ね…。ふふ、従う事は出来ない…ね。」

「全く予想通り過ぎるのも恐ろしいものだな。…憲法で告げたばかりなのだが…、仕方あるまい。」


官邸内部の一室で外から聞こえる演説を聞きながら、二人の男女が言葉を静かに交わしていた。
男性が扉の外の見張りを呼び出し、中に入って来た兵士を見ては言葉なく親指で外を指せば、兵士は一度敬礼しては部屋を後にし無線を手に取った。


「──…発砲許可が出た…。外のゴミを排除だ。」


「了解。」


玄関の中で無線の言葉を聞いた三人の兵は静かに頷き、手に持った片手に構えた拳銃に銃弾を装填し、扉をゆっくりと開いた。


「我々からの自由剥奪は、国として…──っ!」


場を勢い良く壊した銃声は民の鼓膜を揺さぶり混乱を招き、台に乗った演説をしていた男性は支えがなくなった様に大地に倒れる。
いきなりの事に駆け寄った人々が見たのは、眉間を撃ち抜かれ赤い鮮血が傷口より溢れ出していく無残な光景だった。


「あ、あいつら発砲して来たぞ…!!」


「逃げろ!…皆逃げろぉーっ!」


この光景に混乱が起きない筈がなかった。
気が動転し我先に逃げ出す民を逃がさず、一人ずつ確実に銃口を向けて撃ち抜いていく兵士達は、まるで射的の様に非情な事をしてる事に対しての感情はなく、体中に銃弾を浴びせて空を紅く染めていく。


「我が国の法に逆らうは、反逆だ。謝罪は死して償うが良い愚民共!」
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