-Lost Japan-失われし愛国
「ふう…、取り敢えず"私"のお陰で脈拍も安定したわよ。」


「有難う御座います五月女さん。」


「う…、すんなり肯定しちゃイヤン。そんな生真面目に冗談を受け止められちゃうと、逆に申し訳なく感じちゃうわ。」


医務室特有の薬品の匂い。
少女の無事を祈りながら、最悪な結末を頭の中で描いては、その描いた考えを自らの頭の中で握り潰す。
落ち着きのない両手に己の銃を握らせるが、自らの無力さにもどかしさが、自らを包み込んだ。


赤の他人に此所まで心配するなんて…。


会ったのは、ほんの数十分前で初めてな筈なのだ。
しかし、自らの記憶の隙間から覗く隠された記憶には少女の顔が焼き付いている。


もっと…幼い頃の記憶に。


そんな事を考えている最中、手術室から白い白衣を纏い出て来た五月女は、長く背中にまで伸びる黒髪をゴムで纏め、片手に持っていたお盆には赤い液に塗れた金色の弾丸が一発置かれていた。
まだ仄かに温もりが残る鉛玉に無事と分かっていても、少女の身を案じたのか、蓮哉の足は無意識に手術室内に向かっていた。


「…俺は知ってる筈なんだ。君は一体…。」


手術室の中心に設置されたベットで横たわる少女は肩に包帯を巻かれ、麻酔がまだ切れていないのか、未だ眠りの中にいた。
少女の髪に触れた指先から伝わる感触を感じながら小さく問い、返って来る筈のない答えを待っているといる中で答えを出したのは遥香から差し出された一枚のプラスチックで出来たカードだった。
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