-Lost Japan-失われし愛国
──…ウェンの父親・フォンは中国の軍部でも政府からも信頼を置かれてる位に頭の切れる方だったの。
戦争時もフォンさんがいたから、戦争の終盤まで戦い続けられたって言う人もいる位に軍略に関して彼の右に出る者は先ず居ないわね。


ウェンを通じて、私の家庭事情を知ったフォンさんは家を出て行き場のなくなった私を、優しく導いてくれた。
でも、その偉大さはウェンには凄い壁になっているのよ。当たり前と言えば当たり前なのかも知れないけれど、親が優秀だと子も期待されてしまうのは、どんなに嫌がっても避けられないモノよ。


その重みに苦しんでいたのは、私も感じてた。
幼い頃から長男だから尚更ね、周りの期待を受けて学校では常にトップ3を保つ為に遊ぶ時間を惜しんでまで勉強をしてたわ。
フォンさんは周りに息子は自由に職を選ばしてやりたいって言ってたけれど、政府関係者や親族が仕方ないと縦に頭を振る訳もなかったのよ。


完璧な父親に対しての憧れと父親を裏切り、密告した者への怒り、ウェンは父親の遺体を前に「俺は親父を越える。完璧を超えたら俺は日本を倒せるよな?」って言ってたわ…何度も何度も。


だからウェンが本当に自由になるのは父親を越えた瞬間にあるんじゃないかしら?
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