-Lost Japan-失われし愛国
「全く、抗争前だからって皆難しい表情になっちゃってよ。おーっと、お楽しみ中かい?」


「シンメイ、俺には俺の決めた女がいる。」


「それにお楽しみ中って聞かれて、そうよ。何て言わないわよ。」


沈黙が重たい空気に染み込もうと忍び寄る中、それを勢い良く壊したのは扉の音と共に深刻な雰囲気を居づらそうに無造作に跳ねる髪を掻きながら現れたシンメイの姿だった。
シンメイは元中国でも名の知れた富豪の息子だったが、元より家訓を嫌っていた為か地位を奪われても自由になれた気楽さが上回った為、怪我の功名と自身の中で納得し割り切り、この絶望的生活を自分なりに楽しんでいた。


「相変わらず手厳しい御指摘だこと。んで、作戦は決まったかい?体が鈍っちまうよ。」


「なあ、シンメイ。お前、自分の父親の事どう思ってる?」


「親父の事?ふーむ、偉ぶってるね。もう地位は皆と変わらないのによ。」


「そういう事じゃない。お前にとっての父親の存在感…という事だ。」


シンメイの言葉にヨウレイは頭を横に振り、静かにだが何かしらの意味を込めた瞳でシンメイを見つめる。
瞳が意味する意思を何となくだが理解したのか、シンメイは無精髭を擦りながら口元を屁の字に曲げた。
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