-Lost Japan-失われし愛国
──…夢なのだろう。


「フォン…、やっぱり私も行くわ。」


「スンミン、君を連れて行く訳には行かない。子供達を頼む…。」


扉の隙間から見えるのは、今は亡き両親の姿。
久し振りに見る両親の顔に夢の中でとは言え、嬉しさが込み上げて来る。
この時、普段なら寝ている時間だが、その日だけは何故か寝れずに偶然にこの会話を聞いてしまった。
平和だった時は近所でも有名な家族で、羨ましいと何度言われた事だろう。
軍人という職業からか家にいる事は少ないが、居る時は家事も手伝い子煩悩な父。
学問に長けて、才色兼備を形にした様な人物と言われていた母。
こんな家庭に産まれた事を不幸と呼ぶ筈はないだろう。


優秀な両親の子として期待されて苦しんだ事もあるが、この家族に産まれた事を後悔する筈がない。



「分かってる…!分かってるわ。母親である私まで行ってしまったら、子供達は頼る人を失ってしまう。…でも、私の願いは一人の母親である前に、愛する人と何処までも一緒に行きたい…、貴方の女としての身勝手な願い。…ごめんなさい…忘れて、下さい…っ。」


母の頬に伝った涙を今でも覚えている。


抱き締めた父の胸の中で、俺達に聞こえない様に声を押し殺し啜り泣く声は、俺の心の不安を強く駆り立てていた。

この光景から一週間後、中国は日本政府からの奇襲を受けて、無条件降伏と日本政府への忠誠を誓わされた。
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