-Lost Japan-失われし愛国
そこはヨウレイ達以上に、こき使われ、食料もろくにない下層地域で人が道端で倒れて死んでいても、それが当たり前の様に、ある人は仕事をしたり、ある人は家へと僅かな休息を得る為に、おぼつかない足取りで歩いていた。
ヨウレイが向かった先には一軒の民家があり、付近を警戒しながら辺りを見回し、扉を開いて中に入った。


「…ヨウレイかい?ごめんねえ…、何も出せなくて…。スーミンなら、もう少しで帰って来る筈じゃよ。」


「御久し振りですツェンさん。御構いなく、それよりも自愛なさって下さい。……今日は顔を見せに来ただけなので。」


室内には衝立の向こうから、老女の渇いた声が聞えて、言葉の間に挟まれる咳込む声に、ヨウレイは中に入り言葉を紡いだ。
ツェンは次々と侵攻してくる軍から逃げる最中、足を撃たれたのが原因で寝たきりを余儀無くされ、今はたった一人の家族であるスーミンが働き、家庭を支えていた。
衝立の向こうへと足を進めて、力無く頭を自身に向けるツェンにヨウレイは会釈をし、背負って来た荷物を下ろした。


「ただいま、お婆ちゃん。」


「おかえり…、スーミン。ヨウレイが来ておるよ…。」


「!」


開かれた扉からは年頃の娘にも関わらず、身に纏うのは汚く着古された白いシャツに破れたジーンズ、炭鉱作業なのだろうか、頬や服についた炭が疲労を色濃く表していた。
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