-Lost Japan-失われし愛国
──…静寂な空間に、高々と銃声が二発響き渡り、暁色の大地に人影が倒れた。
絵具の様な、深く赤々とした液体が、手の平に滴っていた。
目の前に倒れている二人の人間は既に息はなく、黄昏時の光景の中で、私の前に立つのは、信じていた兄と慕っていた幼馴染みの姿だった。


「ど、どうして…?」


「…、恨んでも構わないぞ。殺したのは、俺だ。」


「何で…、何で撃ったのよ!ねえ…っ!お母さんやお父さんは、何にも悪い事をしてないじゃない!」


「どうだろうな。もう死んだ人間に何を語りかけても、返事はないさ。」


父と母の体は徐々に熱を失い始め、流れ出していく血はみるみる内に大地を赤い水溜まりに埋まっていく。
泣き崩れた私に、前みたいに優しく頼りになる手は差し伸ばされて来る事はなかった。
徐々に闇に染まって行く大地に、私は一人で血の水溜まりから両手一杯に掬っては、両親の体に掛けていた。
両手に出来た、小さな赤い池に頬から伝う雫が落ちて波紋を描いた。


「う…っ、く。く…ふ、うう…──」


この時、私は初めて殺意を持った…。
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