-Lost Japan-失われし愛国
自然とシンメイの足は、父親であるシンロンの元へと向かっていた。


家の財政が破綻し、父の上辺だけの友が裏切ったあの日。

気が半ば狂い始めた父親から、自分自身を守る為に逃げ出した時から、既にどれだけの刻が過ぎただろうか。


父親は首都郊外の、廃墟と化した屋敷に一人住んでいる。


錆びた屋敷の扉は住んでいた時から色褪せて、指先で扉を押すと木材の腐った軋む音が響いた。
屋敷の床は赤のカーペットは黒ずみ、生活感のない屋敷内に生温い風が頬を撫で上げた。


「…っ。」


鼻に突き上げる様に入って来る黴(かび)の独特の臭いに眉間に皺を寄せ、軽く沸き上がる吐き気を堪えつつ更にシンメイは奥にと足を進めた。


「──…な…。」


廊下を歩いていた最中、食堂に差し掛かった足は、部屋内から聞こえてくる声に止まり、シンメイは欠けた箇所から中を覗き込んだ。
そこに居たのはただ汚く伸びた髭を顎にぶら下げ骸骨の様に痩せて、変わり果てた父の姿。
家族との思い出が僅かに滲む屋敷に縋る父の様はとても見れる物ではなかった。
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