-Lost Japan-失われし愛国
「は…はは…、金だッ!金なら幾らでもあるぞー…。」


父は既に価値などない自国の紙幣を両手一杯に持ち、誰も居ない部屋の隅に向けて突き出し、狂った様な笑みを浮かべ、テーブルには食い散らかした数々の食べ物が腐敗し、部屋中に独特の臭いが充満していた。


「…何だ…?いらな…いのか。ふふ…ふはは…っ…!」


静寂な空間に響く父の言葉は哀しく虚空に揉み消され、シンメイは変わり果てた父に再会を果たす為に扉を開いた。


「──…親父…。」


「…は、ははは!はは…ッ。…誰…だ?良く、此所まで来たもんだ。全く…、門番は一体何をしていたんだ。」


「門番なんて居ねえよ。親父…忘れたのか?俺だよ、アンタの息子のシンメイだよ。」


自身に視線を向けた父の初めて口にした言葉は、シンメイの心に僅かに傷を付けた。
思考回路は自身の全盛期で止まっているのか、この廃墟とした屋敷が昔の姿に映っているのだろう。
しかし、シンメイの言葉は残酷にも、その思考回路を打ち砕いていく。
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