-Lost Japan-失われし愛国
「んー?シンメイ…だと…?馬鹿な…シンメイは…。…ッ!」


「…いい加減気付けよ!この屋敷の本当の姿を…ッ!」


曇った瞳に映った屋敷は、昔と同じ煌めいた外装なのだろう。
しかし、既にその煌めきはなく光り輝くシャンデリアは割れて明かりすら灯らず、紅いカーペットは埃や泥で汚く歪んでいた。
両肩を強く掴み、勢い良く揺さぶられる父は力すら入らない足は体重を支える事が出来ずに床に尻餅をつき、屋敷を再び瞳に映した。


「──…な…なんだ!?…此所は何処だ!?」


「アンタの屋敷…、だよ。」


「う…嘘だ!!こ、こんな汚い屋敷。私の屋敷はこの中国全土でも、トップクラスの…!」


「自惚れんなよ。今じゃ最低ランクだ。アンタも俺も。」


「は…はははっ!!ふははは…!」


「……。」


「は…はは…は…。馬鹿な…、私は…私は…ッ。」


脆く


儚く


崩れていく


理想と現実は今無理矢理繋げられ、過去に縋る男に真実を知る時が来た。
汚れた紙幣に埋もれた父の姿は、金という存在をも汚らわしく見せ、シンメイは初めて父の悲痛に歪む表情を見た。
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