-Lost Japan-失われし愛国
「…っ!」


口の中でも切れたのだろう。


口内に鉄の味が滲む。


頬が熱を持ち、痛みが顔全体に徐々に広がっていく。


飛びそうになる意識を、父の平手打ちにより無理矢理呼び戻され、シンメイは力無く父を見据えた。


「育ててやった恩を仇で返しおって!…貴様も、私の金欲しさに集って来た屑だ…!」


「…く…、お、お前から貰う汚れた金に…っ、塗れて生きてたと思うと…うっ…な、情けなくなってくる…ぜ。」


認めない。


金に魅入られ、


妻よりも、


息子よりも、


金を選ぶ男が、


父親だったなんて…。


「まだ言うか…。所詮は出来の悪い餓鬼だ。"他の"子供の方が、まだ使えたな。」


「他…の?他のって…。」


「あー…、まだお前は知らなかった様だな。私には妻など地方に沢山いたんだ…。無論、子供も…な。」


父の言葉は母の言葉を信じて生きてきた自身の考えを、勢い良く粉々に砕いていく。
シンメイの心の奥には久しく忘れていた歪んだ闇が、心を満たしていき、胸を熱くさせた。
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