華の涙




ある日。




「紫乃」




女将が私を呼び、

歩みを止めて振り返る




「お前、重蔵様を断ったそうじゃないか!」




眉を吊り上げて

怒鳴り声にも似た声を上げる



そんな女将を、

しらっとした態度で言い返す




「あの客は好かん。金をやれば女は寄ってくると思ってる男でありんす」




それだけ言って、足を動かす私





「紫乃…!」





女将の声が後ろから聞こえてくる





店の評判なんか知ったこっちゃない。



金も権力も持った老いぼれを

断ったって関係ない。





私は……私は、

一之助様しか………






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