華の涙
「これから、もっと苦しい事、悲しい事が待っておる…」
一撫でして
なだめるような声で言う
「遊女は、そのように簡単に涙を見せてはならん」
涙を拭ってやって、いつの日か
朝霧花魁に言われた言葉をことのに言う
そして、ことのの耳元へ近づいて
「定吉様に、お元気で…と言うておいてな……」
小声でそう言った。
勝手ながら、私がどこかで
兄のように慕っていた人だから
そう、伝えたかったのだ。
ことのに微笑みを見せ
そして、私は一之助様の手を取って
ゆっくり歩き出す