secret name ~猫と私~
言い方一つ変えただけ。

佳乃だったら、誰も反論はしないだろうが、その代わり嫌な雰囲気になってしまっていただろう。

(ああやって言えたら、いいのに。)

彼のように言えたら、皆に慕われる上司になれたはずだ。
どうして自分は、あんな風に自然と皆が行動出来るように言えないのだろう。

小さな苛立ちが、すぐに態度に出てしまう。
大人気ないとは分かっていても、つい厳しい言葉をかけてしまったり、嫌味を言ってしまったり。
仕事中はどうしても余裕を失いがちで、部下たちは敏感にそれを察して、お互いに近寄ろうとはしない。
やりにくいとは思っていたが、仕事なのだし、馴れ合ってはいけないのだからと言い聞かせてきた。

広報部の部屋に消えたセッテ。
先程の彼の笑顔が、その日一日、脳裏に焼き付いて離れなかった。

< 111 / 259 >

この作品をシェア

pagetop