secret name ~猫と私~
今日は2人で帰る、帰り道。
日がくれて、街灯で出来た影が並んでいた。
手を伸ばせば触れてしまう距離なのに、それは出来ない。

本名も、正確な年齢も、何処に住んでいるのかも、何も知らない。

教えて貰えないのに、どうして惹かれたのか。
不思議で仕方が無いのだが、意識するのを止められない。
仕事に戻りたいぐらいだ。
没頭していれば考えなくてすむのに。

「なんや・・・今日一日、おかしないか?」

マンションに着くなり聞かれ、そっけなく動揺を隠す。
パンプスを揃えて脱いで、スーツのジャケットをハンガーにかけて、なるべく視線を合わせない努力をしながら。

「新しいところで、緊張してるんじゃない?」

別におかしいところはないと言いたいのに、自覚があるからごまかすような言葉が言えなかった。

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