secret name ~猫と私~
デスクで人に囲まれるセッテを少しだけ見て、書類に目を落とす。

彼は、本当に仕事一筋だ。

仕事に忠実で、手際も良く、更には周りへの配慮も忘れない。
発言はいつも的確で、話し方は優しい。

自分にはない、今まで気付かなかったり出来なかったことも、嫌味でなく、気付かせてくれた。
きっとそんなところに惹かれたのだろう。

客観視しながら、彼に惹かれた事実を徐々に受け入れ始めている自分に、少し驚く。

残りの契約が終わっても、一緒にいられるだろうか。
自分の気持ちを正直に告白したら、受け入れてもらえるのだろうか。

(どう考えたって、私の方が年上だし。可愛げもない。)

頬杖をついて、書類を見るふりをしながら、小さく溜め息を吐く。

(・・・こんな風に考えるなんて・・・あきらめて、お見合いした方がいいのかもね。)

母に言えば、よろこんで手配してくれるに違いない。
この年になれば、相手も離婚歴を持つ人も多いが、その分経験を積んでいるはずだ。

想いを告げる前からあきらめている自分を振り払いたくて、大きく伸びをする。

何か伝える前に、諦めてはいけない。
諦めるのは、想いが伝わらなかった時だ。

(営業と一緒。きちんと伝えなければ、何も始まらないし、終われない。)

弱気な自分を、内心鼻で笑いながら、佳乃は書類の訂正を始めた。
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