secret name ~猫と私~
猫が動揺しています


「な・・・何でや。」


朝、出社すれば、企画課に着いた途端に目にした人物に、動揺するセッテ。

「何でジブン、ここにおんねん。」

「仕事。」

動揺するセッテとは正反対に、あっさりと答えるその人は、徹夜なのか、目の下にクマがうっすら出来ていた。
いつもの無表情にも、疲れが伺える。

「仕事なん分かっとる。せやけど、ノーヴェ・・・」

名前を呼んでしまってから、佳乃以外の誰もいないか確認して、セッテは安心した。
佳乃の出社時間が早いのが幸いしたようだ。
自分も彼女も、“猫”であることを悟られてはいけない。
不用意に名を呼んでしまうほどに、彼は焦っている。

ノーヴェは作業していたランケーブルを交換し、ゆっくり立ち上がる。
それからかがんで、横にあった重そうな金属製の赤い道具箱を平然と持つ。
彼女のポーチが、カシャンと小さな金属音を立てて揺れた。

「じゃ。」

「ちょお待ちや!」

佳乃に向かって軽く一礼し、セッテを無視して歩き出したノーヴェを、動揺し過ぎたセッテは追いかけていく。

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