secret name ~猫と私~
彼がごまかしたいのなら、ごまかされてみよう。

「そうなの?彼女、貴方よりもかなり前からいるわよ。」

適当な会話で、間を稼ぐ。
よくしゃべる彼との沈黙は、気まずい以外の何者でもない。

「そら知らんかったわ。」

互いに素っ気ない会話。
これ以上、彼女の話題に触れてほしくないのだろう事は、容易にわかる。
もっと突っ込んで聞きたいのに、佳乃はぐっとこらえた。

「猫って、互いに関心が薄いのね。」

嫌味のように吐き捨てれば、セッテの苦笑が返ってくる。
本当は、こんな風に言いたいわけではないのにと、後悔しながら佳乃は続けた。

「団体行動とか、ないの?」

「ないから“猫”なんやろ。」

動物の猫も、だいたいが単独行動だと、そう言いたいのだろう。

「だいたい、皆協調性無いしな。」

「貴方はそうでもないと思うわよ。」

むしろ、協調し過ぎて、違和感が無い程に。

「おおきに。ほな、そろそろデスク戻ろか。」

包み終わっていた佳乃の弁当箱も回収して、セッテが立ち上がる。
先に歩き出した背中に続いて、佳乃も立って歩き出した。
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