secret name ~猫と私~

(何よ・・・)

泣くものか。
こんなことぐらいで。

(何で、優しくするのよ・・・!)

いつ書いたメモなのか、分からない。
セッテが居る時は、ほとんど自分で冷蔵庫を開けたりしないのだ。
言う前に、大抵気付いて聞いてくれるから。

“今日は何飲むん?”

ビールの日もあれば、お茶だったり、ワインだったり。
気分で変わる佳乃の飲み物は、勝手に出さずに必ず聞いてくれた。

手の中のメモが、くしゃりと音を立てた。
頭の中で、セッテは笑顔で残酷な事を言う。

『それが、俺の仕事やから。』

そうだ。
彼の行動も、優しさも、全て仕事だ。
最初から分かっていたのに、近くに居た分だけ、錯覚してしまう。
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