secret name ~猫と私~

「・・・さっき。」

歩きながら、聞こえるであろうギリギリの大きさの声で、佳乃は話し始める。
今日初めての世間話がこれかと思うと、情けなくて悔しくて、溜め息が混じった。
こんな風に仕事に影響するなんて、課長失格ではないか。

「さっき、なんかあったん?」

佳乃に近付いて、その声を拾おうとするセッテ。
あまりに近い距離に、胸が苦しくなった。
自分から話をふったものの、なんだか言い出し辛い。

「ノーヴェさんに会ったわ。」

「そうなん?」

それでも絞り出すように告げたら、セッテは意外そうに笑い、そのまま自然と横に並んで歩きだした。

「せやけどあいつ、ほとんどしゃべらんやろ。」

言葉の節々が、優しさを孕んでいる。
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