secret name ~猫と私~
しかし、残念ながら手に取った書類は読むことがかなわなかった。
今朝は、いつもと違った。
ピンポーン
朝からチャイムが鳴り響く。
(誰よ、こんな朝から・・・)
訪問者の予定は、もちろんない。
こんな早い時間に母が突然訪ねてきたとも考えられないし、残る可能性は一つ。
(まさかね・・・)
朝派遣するとは言っていたが、会社にという事だろうし、まさかこんな早くからは来ないだろう。
よぎった考えに自分で笑いながら、仕方なしに持っていた書類をテーブルに戻し、腰をあげてインターホンに出る。
映っていたのは、見たことも無い黒いスーツの男性。
「はい、高村です。」
思わずみとれるぐらい、芸能人並みに整った顔立ちだが、こんな知り合いはいない。
『おはようございます。㈱gattoから派遣された、セッテ言います。』
独特のイントネーション。
昨日であった武居と同じ、関西地方のものだ。
「あ、はい・・・今出ます。」
にこにことインターホンに話しかける、セッテと名乗る男性。
ドアを開ければ、しわの無い黒いスーツをセンスよく着こなした、モデルのような長身に圧倒される。