secret name ~猫と私~
彼が自らプライベートを語るなんて、今まで無かった。
それだけ、近付けたのだろうか。
それとも、佳乃の気持ちに気付いて、あえて話したのか。
セッテの本心は分からない。
佳乃の胸の奥は痛みが絶えず続き、涙をこらえる為に、長く長く、息を吐いた。

「おめでとう。」

本当なら、笑って言わなければ。
それが大人の女性というものだ。

心の中でそう思っていても、現実と理想は違った。
自分で自分の表情は見えないが、笑顔も作れず、泣く事も出来ず、きっと無表情だろう。

「ありがとう。」

独特のイントネーションで柔らかく返される。
セッテがどれだけ、ノーヴェの事を想っているか。充分過ぎるほど伝わってきた。
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