secret name ~猫と私~
勝ち目うんぬんでなく、この2人の隙間に入る事さえかなわない。
もっと早くに出会えていたらなんて、今さら思っても遅い。

(・・・痛い。)

タイミング良く来てくれた電車に、2人は乗り込む。
わりとすいていてくれたお陰で、満員電車の時のように密着しなくて済んだ。

久し振りの恋。
そして、失恋。
始まってすぐなのに、想いは伝える事すら出来ずに終わる。

(もう、一緒にいられない。)

これ以上一緒に居たら、もっともっと彼の事が好きになってしまいそうで、怖い。
それに、ノーヴェと言う婚約者がいるのだ。
彼女の事を嬉しそうに話すセッテを見ているのさえ、今の佳乃には辛かった。

(私、こんなに弱い人間だったんだ・・・)

誰かを好きになる事が、こんなにも痛いことだったなんて。
恋をして強くなると言うことばをどこかで聞いたが、自分は弱くなった気がする。

だが、すぐに思い直す。

(違う・・・仕事をすることで、弱い自分を隠していたんだわ。)

誰かに支えてもらいたいと、こんなに強く思うのは初めてで、弱くなったと勘違いしたのだろう。
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