secret name ~猫と私~
思い当たる節は無きにしも非ずだが、佳乃に限ってそんなことはないと思いたい。
彼女が、自分に好意を抱いているとは、考えたくなかった。

(俺の自意識過剰なら、ええんや。)

だいぶ前だが、まだセッテが猫になって間もないころ。
ある若い女性の飼い主が、セッテに真剣な恋心を抱いてしまった事があった。
自分はただ仕事をしているだけなのにと、当時は飼い主との距離の取り方にかなり頭を悩ませた。
嬉しかったというよりも、仕事に対しての戸惑いが先行してしまい、彼女には申し訳ないことをしてしまったと思う。

それ以来、ご主人様マニュアルに“恋をしてはいけません”と、記載されるようになったのだ。

仕事は、仕事。

ご主人様と恋をするなど、あってはいけない事。
だからセッテは、人に深く踏み込まないようにしていた。
職場で友人を作らないのも、そこから自分を知られないため。
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