secret name ~猫と私~
ノーヴェは割り切っている。
クライアントから頼られてはいるようだったが、彼女の性格もあってか、一切歩み寄っていないようだった。
クアットロだってそうだろう。
彼は他人には踏み込んでくるくせに、自分の事は何一つ明かさない。

それぐらいの事が、必要なのだろうか。
もし必要だったとしても、自分に出来るだろうか。

(無理やな。)

一瞬で否定する。
無口で、無表情で、必要最低限の事しかやらない。
それは確かに猫としては合格だろう。
だが、セッテ個人としては、それではいけない気がした。

“人間としては悪くない。”

クアットロの一言が、背中を押してくれる。

セッテは目の前に残った食事を食べて、食器を片づけた。
シンクに入れるだけでいいと言われているから、いつもは洗っておくそれを、今日は置くだけにした。

「ほな、2人ともありがとう!スッキリしたわ!」

入ってきた時と同じように、笑顔でドアをくぐる。
人間として悪くない。だが、猫としては悪い。

(そんなら、それを貫かなあかん。)

自分は猫だが、他の猫と違い人のプライベートに踏み込んで仕事をするのだから。



廊下を歩いて、自分の部屋に入り、ビールとジンジャーエールを持って、また出る。

< 229 / 259 >

この作品をシェア

pagetop