secret name ~猫と私~
ノーヴェはまだ会社の社長室にいるから、時折見かけた。
相変わらずの無表情で、佳乃の事を気にも留めずに、見かけるたび機械をいじっている。

無遠慮かと思ったが、一度まじまじと見つめた事もあった。
その視線にも気付かないぐらい、彼女は没頭して、こちらを向きもしない。

『ほんま機械が好きな奴でな。今の社長んとこ、天国やろな。』

セッテの嬉しそうな言葉が、鮮明に思い出された。

彼は今、元気だろうか。
どんな仕事をしているのだろうか。

それさえ、ノーヴェに聞く事はためらわれた。
まだ、彼女に嫉妬している自分が居る事は、分かっている。
セッテの話を聞いて、以前の様な受け答えをされれば、腹が立つことも。
だから佳乃は、ノーヴェと極力接触しないように努めていた。

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