secret name ~猫と私~
しかし、何故ノーヴェは自分にそんな事を教えるのか。
疑問が残った。

「見送る必要、無いでしょう?彼が選んだのは、アナタなんだから。」

自分で言って、悲しくなる事実。
それでもノーヴェはじっと、佳乃がヘルメットをかぶるのを待っている。

「あの人、気にしてました。」

ヘルメットをかぶったままの、くぐもった声。
ノーヴェは昨日のセッテとの会話を思い出す。

『俺、ホンマにこのまま・・・行ってええんかな・・・』

佳乃に契約を解消されてから、どれだけ経っていると思っているのか。
こんなに悩むセッテは、ほとんど見たことがない。
眉間にしわを寄せ、溜め息を吐いていた。

『いつ帰ってこれるかもわからへんし、逃げるみたいでスッキリせえへん。』

猫としてのプライドと、好意を寄せられた喜び。
傷付けてしまった後悔。
伝えられなかった返事。
たくさんのものがせめぎあって、悩んでいる。
せめて都内にいれば何かしら行動は起こせるが、離れてしまえばそれもできない。
手紙は苦手だし、電話をしていいとも思えない。

(悩むぐらいなら、会ってスッキリすればいい。)

そう思って、ノーヴェは佳乃を迎えにきた。
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