secret name ~猫と私~
不機嫌なまま、エレベータに乗る。
エレベータ内の鏡に写った自分を見て、さすがに社長の前までこの顔ではいけないと思い、なんとか気持ちを切り替えて社長室の前にたどり着いた。

どんな内容の話なのか。
少し緊張して、重厚感のある濃い茶色の扉を、二回ノックする。

「失礼します、高村です。」

『ああ、待ってたよ。』

聞こえてきた、優しく、低い声に言われるがまま、佳乃はドアを開ける。

友人を招くかのような社長の物言いに、少しだけ溜め息を吐きそうになった。

自分は彼の部下であって、友人ではない。

尊大に振る舞われるのも嫌だが、もう少しなんとかならないものか。
こういったところが社員には親しまれる要因となっているのだが、佳乃には受け入れ難かった。

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