Un chat du bonheur
act.2
結局、朝まで一睡もできないまま朝がきてしまった。
―…ちょっと買い物にいってただけだよ
今にもそう言って、リュックが部屋に入ってくるのではないか。
そんな想像をしながら、フェリクスを膝に抱いてレアはずっと座り込んでいた。
なくしてから、気がつくなんて。
自分はいつもそうだと涙が溢れた。
伝えたい事がまだ、あったのに。
心の中でならいくらでも言葉が出てくるのに、伝えたい相手はもう目の前にいないのだ。
明るくなった通りを見つめながら、レアは涙を拭った。
今日は、リュックを探すつもりだった。
結局昨日の服のままだったが、着替えるのも億劫でそのままジャケットを羽織ることにした。
フェリクスは置いていこうかとも考えたが、何故か置いて行くのがしのびなくて連れて行くことにした。
「リュック…」
名前を呼ぶと、心が締め付けられる様に痛かった。
街の中を小走りに見て回る。
二人で歩いた通りや、リュックが働いている花屋も覗いてみた。
花屋の店主に確認をとると、今日と明日は休みをとっている、ということだった。
一緒に住んでいるはずなのに、教えていなかったの?と聞かれても、レアには曖昧な笑顔を向けることしか出来ない。
思い直してまた街を当て所なく捜し歩いて、夕方になっても結局リュックを見つける事は出来なかった。
ぽつり、と頬に冷たい雫が零れ落ちる。
雨だ―…思うより早く、秋の夕立が容赦なくレアとフェリクスを打ち付ける。
小さなフェリクスが、寒さにぶるぶると身体を震わせていた。
レアはとぼとぼと歩きながら、とうとうかつてリュックとであった場所の近くまで来ていた。
あの時は意識していなかったけれど、それは廃材なんかではなくて、小さな花屋が焼け落ちた後だった。
レアのアパートからは大分離れていて、少しだけ寂れているこの場所は、まるであの日の灰色の街そのもので。
レアはとうとう、そこに座り込んでしまった。
―…あなたがいないと、私…。
下唇を噛み締めていると、フェリクスが膝から飛び降りてとことこと歩き出した。
レアはどこか放心したように、その後姿を見送っていた。